いつも何度でも

ナターシャ グジーさんというウクライナ出身の女性歌手の存在を知ったのは最近のことです。

父親はチェルノブイリ原発で働いており、彼女は6才の時にチェルノブイリ原子力発電所からわずか3.5kmしか離れていない故郷の村で原発事故に遭ったそうです。

しかし政府は丸1日の間事故のあったことを地域住民に知らせなかったため、人々は何も気づかずに普段通りの生活をしていたのです。

人類史上最悪と言われるチェルノブイリ原発事故は1986年4月26日01:23頃に発生しましたが、それから約1日の間、ゴルバチョフ書記長をはじめとする当時のソ連政府の主だった高官たちがことごとく雲隠れして音信不通になり、ソ連は無政府状態に陥っていました。

その間、高官たちは自らの家族や親戚たちを安全な場所に避難させる手配に骨を折っていたと言われています。

「これこそが共産主義やノーベル平和賞の正体!」などという話はあまりにも悲し過ぎるので今日はやめておきます。

ただはっきりしていることは、その原発事故のために現地だけでなく世界中でたくさんの人々が放射能のために病み、死んでいったという事実です。
ナターシャも父親や友人たちを被曝のために失い、事故の翌日に「3日間だけの避難」と言われて村を出たきり二度と戻ることはなかったそうです。


ナターシャは8才頃からバンドゥーラという弦楽器を弾きはじめ、来日してからは日本語で弾き語りをするようになりました。

2008年にNHK教育テレビの「視点・論点」に出演した時の映像をYouTubeで観ることができます。

演奏に先立つ彼女のスピーチと歌われた「いつも何度でも」が強く胸に迫ってきます。


http://m.youtube.com/watch?desktop_uri=http%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3Dry_WACFd8Ds&v=ry_WACFd8Ds&gl=JP


 いつも何度でも  

作詞 覚 和歌子
作曲 木村 弓


呼んでいる 胸のどこか奥で
いつも心躍る 夢を見たい

かなしみは 数えきれないけれど
その向こうできっとあなたに会える

繰り返すあやまちのそのたび ひとは
ただ青い空の 青さを知る

果てしなく 道は続いて見えるけれど
この両手は 光を抱ける


さよならのときの 静かな胸
ゼロになるからだが耳をすませる

生きている不思議
死んでいく不思議
花も風も街も みんなおなじ

ララランランラランラーーーランランララン
ララララランランララランラララランラララララ
ホホホホホホホホルンルンルンルフフフフフ
ルルルルルンルルルーンルルルー


呼んでいる 胸のどこか奥で
いつも何度でも 夢を描こう

かなしみの数を 言い尽くすより
同じくちびるで そっとうたおう

閉じていく思い出のそのなかにいつも
忘れたくない ささやきを聞く

こなごなに砕かれた鏡の上にも
新しい景色が 映される

はじまりの朝の 静かな窓
ゼロになるからだ 充たされてゆけ

海の彼方には もう探さない
輝くものは いつもここに
わたしのなかに
見つけられたから

ララランランラランラーーーランランララン
ララララランランララランラララランラララララ
ホホホホホホホホルンルンルンルフフフフフ
ルルルルルンルルルーンルルルー 




この歌は元々2000年頃にスタジオ ジブリで企画のあった「煙突描きのリン」というアニメ映画のために作られた曲だったそうです。

この「煙突描きのリン」は結局ボツになり歌だけが残りましたが、宮崎駿氏が次のジブリ作品「千と千尋の神隠し」の主題歌に採用して世に出たわけです。


ボツになった「煙突描きのリン」は、群発地震に襲われて瓦礫の街と化した東京のある町に唯一残った銭湯に、絵の勉強のために大阪からやってきた女の子「リン」が煙突に絵を描くことを条件に住み込んで、屋根の上から廃墟となった東京の街を見下ろして煙突に絵を描きながら「いつも何度でも」を口ずさむというストーリーだったそうです。


この歌は、大地震の被災地を舞台に文明の崩壊と再生を描く映画の主題歌として作られたという出自と、ナターシャ グジーという私たちと同じヒバクシャによって歌われたという2つの要素が化学反応を起こして新しい命が吹き込まれ、大震災と原発事故の被害に苦しむ現在の私たち日本人の心に感応するのではないでしょうか。


最後の、

「輝くものは いつもここに
わたしのなかに
見つけられたから」

というフレーズは、生きてゆく力が自分自身の中にあることを発見した喜びにあふれていてとても好きです。

 

下山田吉成

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