心療内科及びホリスティック医療におけるバッチフラワーレメディーの効果と役割
2002/5/6
バッチフラワーレメディーとの出会い
約15年前エンタープライズ社刊の「人間医学百科」(絶版)の中に「バッチの花療法」として紹介されていたのを読んだのがバッチフラワーレメディー(以下バッチフラワーと記す)との最初の出会いでした。当時はまだ肉体的な治療に強く魅かれており、また現在よりもバッチフラワーについての情報が少なく、入手も困難でそれ以上の進展はありませんでした。その後、「日本ダウザー協会」のダウジング(振り子によるエネルギー診断)セミナーで実際に初めて服用した時、何とも言えない茫獏とした感覚を体験し、とても不思議に感じたのを覚えています。
平成9年、ホリスティック医学を提唱する柿の木坂心療内科クリニックの開院に際し、オープニングスタッフ(鍼灸担当)として参加し、それまでに経験した主に肉体の苦痛を訴える患者よりも、心と体にまたがる疾患や症状に苦しむ患者を数多く治療するうちに、運動系の治療技術だけでは及ばない方がたくさんいることを知り、かねてより関心のあったバッチフラワーの導入を検討したのです。
「自分が経験して効果のあった治療法以外は臨床で用いない」という信念にのっとり、約半年間自分自身がバッチフラワーを服用した結果、医学的臨床にたえうるはっきりとした効力を実感し、医師の了解を得て導入に踏み切りました。以来約四年間二つの医療機関及び個人的なカウンセリングを含め、延べ2500人以上のセッションを行いとても素晴らしい成果を納めつつあることをDr.エドワード・バッチ博士と日本の皆様にご報告致します。このささやかな治療経験が日本の医療福祉教育の発展に少しでも貢献できれば望外の幸せです。
なお、医療機関におけるバッチフラワーの臨床を快く承諾して下さいました柿の木坂心療内科クリニック(現・心療内科高田馬場クリニック)院長大谷了英医師と赤坂溜池クリニック院長降矢英成医師に紙面をお借りして感謝いたします。
過去の臨床例からの考察
1.心療内科領域において
(1)カウンセリングとの併用
カウンセリングによって得られる患者の心理パターンに対して適切なレメディーを処方することでカウンセリングの効果を一層高めることができる。他の様々な心理療法との併用も可能である。主に心の悩みを自覚している人が対象となるので、バッチフラワーレメディーを最も活用しやすいポジションであると考えられる。
(2)抗精神薬との併用に関して
@強力な抗精神薬や多量の抗精神薬を服用をしている場合、精神の働きそのものが麻痺しているので治癒力が発動しにくかったり、バッチフラワーの効力が分かりにくくなることがある。
A必要最小限度の適量、適度な抗精神薬の使用レベルにおいてバッチフラワーを併用した場合、患者本人の治癒力を喚起し結果として減廃薬を促進する。この方法での治癒例は多い。そのためにはバッチフラワーについて主治医の充分な理解を得ることが大切であることはいうまでもない。
(3)治療効果について
@最も効果が見られたのは、パニック障害・恐怖症・強迫神経症などであり、抑うつ神経症、軽うつ、不眠症などがこれに続く。
A引き込もりの複数の症例についても一定の改善が見られた。
B摂食障害(過食症、拒食症)の治療は個人的には成功率があまり高くない。特に食べ吐きが習慣化しているケースにおいては、改善はしても完治に至ることは少なかった。成功した例においてはタイプレメディーとムードレメディーの選択が適確であったと考えられる。上手くいかなかった症例ではタイプレメディーの選択に難があったように思われる。
2.ホリスティック医療におけるバッチフラワーレメディーの貢献
(1)多様な疾病への効果
バッチフラワーは様々な病を完全に癒す万能薬ではないが、様々な病の治療に用いることによって患者の苦痛を軽減し治癒を促進することができる。このことはホリスティック医療を行う二つの医療機関での経験から確信している。
人間を「体・心・気・霊性」等の有機的結合体ととらえ社会・自然・宇宙との調和にもとづく全体的包括的な健康観に立脚した医療を様々な治療法の適切な組み合わせによって実現する、ホリスティック医学の中にこそバッチフラワーの最もふさわしい役割があると考えられる。
(症例1)脳血管障害の後遺症に悩む患者に対し食事療法、漢方治療、鍼灸治療を行ったところ身体症状はみるみる回復し復職もかなったが、病前は積極的外交的性格であったものが、発症時の精神的なショックから対人緊張に苦しむようになった。そこで、カウンセリングや自律訓練法を行ったが著効せず慢性化しつつあったときにバッチフラワーの服用によって目覚しい回復をとげた。
(症例2)化学療法を行うガン患者に対し、スターオブベツレヘム・クラブアップル・ウォルナット等の服用をすすめたところ、副作用が軽減され楽に乗り切ることができた。
(2)他の療法との併用
バッチフラワーは他の様々な治療法にとってかわるものではないが、他の治療法と併用することによって相乗効果をもたらし、病の治癒を一層促すことが可能である。
@鍼灸治療との併用
中国医学では五臓(肝心脾肺腎)に対応する感情「五志」がありそれぞれ怒りは肝、喜笑(極端な喜び)は心、思(もの思い)は脾、憂悲は肺、恐驚は腎を傷つけると言われている。鍼灸治療の診断は主に脈診・舌診・腹診等によって成されることが多いが、問診の際に気分や情緒について充分に聴いておくことが大切である。
当然のことながら決定した証(中医学的臓腑の診断)と患者の心の状態が一致することは珍しいことではなく、このことは心理状態に重きを置いた漢方診断が充分に成り立つ可能性があることを示唆している。
私の経験によれば、肝の証とホリー・チェリープラム・バーベイン・インパチェンスの状態は一致することが多い。同様に心の証とスクレランサス・セラトー、脾の証とマスタード・クラブアップル、肺の証とゲンチアナ、腎の証とロックローズ・ミムラス・アスペン・スターオブベツレヘムなどが関係性を持つ傾向にある。
現時点においては中医学的診断により刺鍼または施灸する経穴(つぼ)を決定し、一方で心理的診断からフラワーレメディーを選択する場合が多い。経穴に刺激を加えると共にフラワーレメディーを口中に滴下し、10〜20分寝かせておくと良い。
これらのことについては今後さらなる研究の成果を持って詳しい内容を発表したいと考えている。
Aホメオパシーとの併用
Dr.エドワード・バッチ博士はホメオパシーの世界では大腸菌ノソードを作ったことでよく知られているホメオパスでもあった。バッチ博士はホメオパシーの創始者であるサミュエル・ハーネマンに深い尊敬と魂のつながりを感じていたと云われている。私の理解する所を誤解を恐れずに言えば、バッチ博士はホメオパシーの示す真理をよりわかりやすく誰にでも享受できるようにフラワーレメディーという形で遺したものと考えられる。よって、この二つの療法はアダムとその肋骨から創られたエヴァのように患者にとって父母の役割を果たすのではないだろうか。ホメオパシーは厳父の如く道を指し示し、バッチフラワーは慈母の如くやさしく包み込んでくれる。幾多の症例からこの二つの治療法にはそのような優れた相補性があると実感している。
具体的にはレメディー同士の相乗効果に加え、ホメオパシーのもたらすアグラベーション(一時的悪化)と服用頻度の少なさに対する患者の不安を取り除くことなどが挙げられる。
相補的使用例として、失恋によって大きな失望と悲観に陥り情緒の不安定から人前で泣いたり頻繁にため息をつく女性に対してホメオパシーではイグネイシアというレメディーを投与するが、バッチフラワーからはレスキューレメディーもしくはスターオブベツレヘムやスイートチェストナットを併用することによって、より速やかでスムーズな回復を促すことができる。
3.バッチフラワーレメディーの一般的考察
(1)好転反応について
@レメディーが与えたきっかけにより、それまで抑圧されていた感情が解放され一時的カタルシスが起こる場合がある。
A好転反応は肉体に表れることもある。私の経験では頭痛・下痢・発熱・筋肉痛・発疹等が多かったがいずれも短期間で解消している。
(症例)四十二才♀主婦、夫の海外赴任中、寂しさと度重なる近隣住民とのトラブル、嫌がらせ等から心身の調子を崩し、卵巣ガン(手術済み)、不眠、うつ、対人不安、ヒステリー、便秘、五十肩(右)、監視されているという恐怖などに悩んで来院した。スターオブベツレヘム・ミムラス・ホワイトチェスナット・マスタードを服用後四日間激しい腹鳴とガスが昼夜を問わず続いた後ですっきり排便し、心が軽くなると同時に外転制限(約九〇度未満)のあった右肩がほぼ正常(約百七十度)まであがるようになった。
Bバッチフラワーの服用によって本質的または長期的に悪化した症例は皆無であった。
(2)精神病への効果
心療内科レベルの精神症状に対しては充分効果があることを実証できたが、精神科レベルの重篤な精神疾患(精神分裂病など)については小さな改善は随所に見られたものの病勢をくつがえすほどの効果は見られなかった。今後の更なる研究が待たれる。
(3)肉体的疾患への効果
肉体的な疾患に対しての直接的な治癒効果は確認していないが、精神的不調が回復することによって肉体上にあらわれていた症状が改善した例は数多く存在する。
(4)乳幼児・動植物への効果
@私は成人のみならず乳幼児・ペットの臨床においても素晴らしい治療経験を得ている。これらは最も感受性の強い治療対象であると考えられる。
(症例)乳児(1才)がテーブル上の湯呑の熱湯を自分の顔の上にこぼして二度の火傷(水疱形成)を負った。すぐさまホメオパシーのレメディー(アコナイト・アルニカ・カンサリス)を投与しつつ、レスキュークリームを患部に塗り、レスキューレメディーの投与を翌朝まで頻繁に繰り返した。当初は泣き叫んでいたがまもなく鎮静し、熟睡した。翌日にはかなり腫れがひいており、レスキューレメディーとレスキュークリームの使用を継続したところ6日後にはあとかたもなく治癒した。
(5)緊急時の対応
@心身の急性症においてはレスキューレメディーのみでは効力が充分でない場合、タイプレメディーやムードレメディーの頻回服用またはムードの変化に合わせた小刻みなレメディーのリレーが必要な場合もある。
(6)服用以外の使用法
@入浴剤として
Aスプレー、霧吹きに入れて噴霧
Bエッセンシャルオイルに混合(アロマポットで揮発またはマッサージオイルとして)
Cレスキュー、その他のクリームにブレンド
D加湿器に加える
Eアイロンのスチームに
F化粧水、リンス、トリートメント、香水、コロン、ヘアトニック、ローション、歯磨き粉、洗濯洗剤等に混ぜて
Gチンキ、チンクチャーに混合(内用、外用)
H吸入器、腸洗浄器、温水浣腸器の水に加えて
I経穴、チャクラ、体表(反射ゾーン、受傷部位)に塗布
Jうがい薬(液)、目薬、消毒薬、点鼻薬に加えて
K水拭きのバケツの水、洗濯機(すすぎ時)に加えて
L塗料、接着剤に混合
M染料、墨汁、絵の具に混合
N就寝時にストックボトルを枕の下に入れて眠る
バッチフラワーレメディーは英国において約七十年に及ぶ歴史があり、今日ではドラックストア等で日常的に見られるポピュラーな存在ですが、日本ではまだ紹介されて日も浅く一部の自然食品店やハーブショップの店頭に並んでいるだけです。バッチ博士の願い通り、今後は医療のみならず、様々な階層に広がってゆき、様々な局面で様々な使われ方をするであろうと予想されます。願わくば正しい普及によって、より現実的効果のあるセルフケアの一分野として日本社会に根付くことが期待されます。
下山田吉成 プロフィール